「梅が好きだから」——福梅本舗で働きはじめた大学生

福梅本舗の自由が丘店に、とても頼もしいアルバイトがいます。大学生の、高橋さんです。
高橋さんが、うちで働きたいと言ってくれたときのこと。
正直、驚きました。
だって、世の中には時給の高いバイトも、もっと楽な仕事も、いくらでもあります。
それなのに高橋さんが福梅本舗を選んだ理由は、たった一つ。
「梅が、好きだから」。
……どれだけ梅が好きなんだ、と思わず笑ってしまいました。
そして、心から嬉しくなりました。
高橋さんの梅好きは、筋金入り。
どれくらいかというと、世に出ている梅という梅を、ひととおり口にしてきたというほど。
全国のいろんな梅干し、梅とつくお菓子、スイーツを食べ、語り出したら止まらない。
もともとは福梅本舗の一人のお客様だったというのですから、ご縁とは不思議なものです。
梅への愛が高じて、いまでは店頭に立ち、お客様に梅の魅力を伝える——福梅本舗の若き「梅伝道師」として、元気に活躍してくれています。
梅をテーマに、ドキュメンタリーを撮る
そんな高橋さんが、あるときこう言い出しました。
「大学の課題で、梅をテーマにしたドキュメンタリーを作りたいんです」。
聞けば、収穫の時期に合わせて、産地まで足を運んで撮影・取材をしたいのだといいます。
店頭で梅と接している高橋さんが、その梅がどこで、どうやって生まれているのかを、自分の目で見て、カメラに収めたい。そう考えてくれたのです。
私たちに、断る理由はありません。
梅を愛する若者が、梅のことをもっと深く知ろうとしている。
こんなに嬉しいことは、ないのですから。
収穫から塩漬けまで。紀州南高梅ができる現場へ
こうして高橋さんは、同じゼミの仲間と収穫真っ最中の産地へやってきました。
そこで目にしたのは、店頭からは想像もつかない世界だったようです。
早朝、まだ薄暗いうちから畑に出て、樹の下に落ちた完熟梅を一粒ずつ拾い上げる。
そして、その梅が傷んでしまう前に、その日のうちに塩漬けにする。一日たりとも待ってはくれない、時間との勝負の日々。
「こんなふうにして、紀州南高梅はできるのか」。
高橋さんは、目を丸くしていました。
あれほど梅を食べ歩いてきた高橋さんでさえ、一粒の梅干しの裏側にこれほどの手間と苦労があることは、知らなかったのです。
カメラを回しながら、その大変さを、心から実感してくれているようでした。

作り手の背中を、これほど真剣に見つめてくれる若者がいる。
そのまなざしに、私たちのほうこそ、背筋が伸びる思いでした。
FUKUUME CAFEの「梅づくし」ランチに感激
取材の合間には、うれしい初体験も。
白浜のFUKUUME CAFEで、高橋さんは初めて「梅づくし」の食事を味わいました。
梅を使った料理が並ぶ食卓を前に、もう大喜び。
あれほど梅を知り尽くした高橋さんが、それでもまだ知らない梅の楽しみ方に出会えたことが、心から嬉しかったようです。
その顔を見て、私たちも思いました。
梅には、まだまだ人を驚かせ、笑顔にする力がある。
その可能性を、これからも広げていきたい、と。
凶作の時代に、梅を愛する若者がいるということ
いま、梅の産地は決して楽な状況ではありません。
三年続く凶作、担い手の高齢化——課題を挙げればきりがありません。
けれど、高橋さんのような若者がいる。
梅に恋をして、その魅力を人に伝えたいと願い、カメラを手に産地まで足を運ぶ。
そんな一人がいてくれるだけで、私たちは未来に希望を感じずにはいられません。

「あなたにとって、梅とは何か」と問われて
取材の最後に、私自身もカメラの前に立つことになりました。
高橋さんが、まっすぐこう聞いてきたのです。
「小山さんにとって、梅ってどんな存在ですか?」
……これが、すぐには出てきませんでした。
長年この仕事をしてきて、毎日梅と向き合ってきたはずなのに、いざ「梅とは」と問われると、言葉に詰まってしまう。
その場では、うまく答えられませんでした。
答えが降りてきたのは、それから数日後のこと。
しかも、犬の散歩の途中、半分夢の中にいるような、ぼんやりとした頭の中でした。
「梅とは、夢の中」。
高橋さんのドキュメンタリーに、この答えが使われるかどうかは分かりません(笑)。
それでも、若い伝道師にそう問われたからこそ、私は初めて、自分にとっての梅の意味を、あらためて考えることができました。
問いを持って現場にやってくる若者は、作り手にも、新しい気づきをくれる。
高橋さんは、そんな大切なことを、私たちに教えてくれたのかもしれません。


