今年も紀州に春が来ました。2月、白い花が山々をやわらかく染め、いまは小指の先ほどの青い実が、枝のあちこちで風に揺れています。これから6月の収穫=「梅の祭り」に向けて、畑では大切な仕事がはじまります。それが、〈ネット張り〉です。春の畑からのいちばん新しい便りを、皆さまにお届けします。
白い花から、青い実へ。
2月、紀州の冷たい風のなか、梅の木はいちばんに春を告げます。桃色がかった蕾がほころび、純白の花が一斉に開く――

その光景は、毎年見ても胸が熱くなります。
花が散ったあとには、針の先ほどの小さな実が顔を出します。
3月、4月と日が長くなるにつれて、実は少しずつ、しかし確かに大きくなっていきます。
今は、ちょうど小指の先ほど。
緑色のすべすべした肌に、産毛がうっすらとまとわりついて、毎日畑を見にいくたび、「昨日より、ちょっと大きくなったかな」と語りかけてしまいます。
命の営みは、今年も確かに、ここに続いています。
〈ネット張り〉という、収穫前の大仕事。
これから5月にかけて、私たちは梅の木の下に大きな黒いネットを張りめぐらせていきます。
これが、紀州の梅農家にとっての春いちばんの大仕事、〈ネット張り〉です。

なぜ、ネットを張るのか――。
それは、梅が完熟して自然に枝から落ちてくるのを、傷つけずに受け止めるためです。
最高級の南高梅は、人の手でもぎ取るのではなく、木自身が「もう熟したよ」と教えてくれる瞬間まで枝に残し、重力にしたがって落ちてきたところを、ふんわりと受けとめる。
この〈完熟落下〉こそが、皮が薄く、果肉がとろりと柔らかな梅干しの秘密なのです。
ネットを張る作業は、急斜面に登り、木と木のあいだに何百メートルにもわたってネットを広げていく、骨の折れる仕事です。
それでも私たちがこの仕事を大切にしているのは、紀州の梅干づくりの、ゆずれない一線だからです。
……ただし、今年もまた、厳しい春です。
去る4月15日、地元紙・紀伊民報が「梅 3年連続の不作か」と大きく報じました。

紀伊半島南部の今年の着果調査では、主力品種〈南高〉の実の数が平年のおよそ6割にとどまるとのこと。1月の乾燥、暖冬による受粉不調、そして3月29日のひょう被害が重なったためです。
ただ、私たち福梅本舗の畑では、もう少しだけ希望が持てそうです。
毎日畑を見て歩いている肌感覚としては、6割とまではいかず、平年のおよそ8割ぐらいかな、というところ。畑によって、地形や標高、風の通り方で被害の出方はずいぶん違うのです。
それでも、平年並みでないことは確か。今年もまた、厳しい春となりそうです。
3年続いたひょう、今年は小さく済みますように。
ひょうの被害も、これで3年連続です。
ただ、昨年(2025年)は4月に4度にもわたってひょうが降り、特に最後に降った大粒のひょうで畑は壊滅的な打撃を受けました。皆さまにも「外観基準緩和」のご案内を差し上げ、ご心配をおかけしました。
それに比べると、今年・3月29日のひょうは、粒も小さく、降ったエリアも限定的でした。
被害を受けた畑のお話を伺うと、もちろん厳しい状況には変わりませんが、「去年ほどではない」と、ほっと胸をなでおろしている声も多く聞かれます。
どうか今年は、これ以上ひょうが降りませんように。畑に立つ私たちも、毎日空を見上げながら祈っています。
※追記:5月1日に田辺市・みなべ町で雹が降りました。
それでも、私たちは畑に立つ
不作の便りが届いたからといって、私たちが畑に立つのをやめるわけにはいきません。
むしろ、こういう年だからこそ、一粒一粒の実を、いつも以上に丁寧に見守っていきたいと思っています。
実の数が少ない年こそ、一粒の重みは増します。
ネット張りの手は、いつもより念入りに。完熟を待つ時間は、いつもより長く。自然のいとなみは、人の都合で止まりません。
だから、私たちも止まりません。
今年も、商品の量や外観について、皆さまにご不便をおかけする可能性があります。
昨年お知らせした「つぶれ梅」「お試しセット」の外観基準緩和も、状況によっては続けさせていただくかもしれません。
梅干しの外観基準緩和に関するご案内(お試しセット・つぶれ梅干)いつも福梅本舗をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。この度、ニュース等でも報じられておりますように、和歌山県では暖冬や度重なる雹(ひょう)の影響により、昨年に続き今年も梅の花や実が甚大な被害を受け、近年にない大凶作となりました。それで…
それでも――味と品質については、決して妥協しません。
紀州の土地で、紀州の人の手で、1300年前から続いてきた梅づくりの一線は、どんな年でも、必ず守ります。「1000年先も、梅をかじろう。」――
この言葉は、今年の不作くらいで揺らぐものではありません。
今年も、目の前の一粒づつを大切に収穫していきます。



