目が覚めた瞬間、体が軋む、
腕はパンパンに張り、足は地面に沈みそうなほど重い。
「もう無理や……」
そんな言葉が喉元まで出かかった。
でも、それを飲み込んで、静かに起き上がった。
最後の日。
どこか妙に落ち着いていた。
初日のような焦りも、2日目の絶望感も、もうなかった。
あるのはただ、
「最終日、昨日以上の列をこなし、やり切って終わる!」という気持ちだけ。
会場へ向かう道すがら、朝の冷たい空気が肌を刺す。
それが、少し心地よかった。
9時、オープン。
淡々と店の準備をする。
厨房に立ちながら、ふと入口に目をやる。
——人が少ない。
「あれ……?」
なんだか、拍子抜けするような静けさだった。
ピークは昼からなのかもしれない。
でも、初日や2日目のような、あの“押し寄せる圧”は感じない。
スタッフと目が合う。
「今日、そんなに忙しくならんのかな……」
誰かが小さく呟いた。
その予感は、当たった。
慌ただしく動き回ることはなく、じっくりとお客さんと話す余裕があった。
「昨日のあの子、また来るやろか……」
そんなことを考えながら、目の前の一人ひとりに料理を手渡していく。
太陽が少しずつ傾いていく。
17時、空が夕暮れに染まりはじめる。
列はある。けれど、昨日のような長蛇にはならなかった。
「なんか……終わるんやなぁ……」
ふと、そんな感情が胸に広がった。
少し寂しくて、少しホッとして、でもやっぱり寂しい。
厨房の片付けをしていたスタッフが、ぽつりと呟く。
「……終わったな。」
誰も返事をしなかった。
ただ、その言葉だけが、静かに夜の空気に溶けていった。
22時、夜組にあとは任せて、帰り道。
遠くから、聴こえてきた。
ノエル・ギャラガーの「Don’t Look Back in Anger」。
メインステージの大トリ、最後の曲。
何千人もの人たちが、大合唱していた。
夜空に響くその歌声は、やけに綺麗だった。
照明の光が空に溶けて、まるで星と混ざり合うように揺れていた。
立ち止まった。
何も言えなかった。
それまで張り詰めていたものが、音もなく崩れていくのがわかった。
胸の奥がギュッと締め付けられる。
「寂しいな……」
何かが足りない。
もっとできたんじゃないか。
もっと、すごい景色を見たかった。
なぜか、悔しさが込み上げてきた。
本当に、悔しかった。
だから、夜空を見上げて、心の中で誓った。
「リベンジしたい。」
もう一度、この場所に戻ってこよう。
そう思った。
