フジロック2024 出店記⑤「最終日」

店主のひとりごと

目が覚めた瞬間、体が軋む、
腕はパンパンに張り、足は地面に沈みそうなほど重い。

「もう無理や……」

そんな言葉が喉元まで出かかった。
でも、それを飲み込んで、静かに起き上がった。

最後の日。
どこか妙に落ち着いていた。
初日のような焦りも、2日目の絶望感も、もうなかった。
あるのはただ、

「最終日、昨日以上の列をこなし、やり切って終わる!」という気持ちだけ。

会場へ向かう道すがら、朝の冷たい空気が肌を刺す。
それが、少し心地よかった。

9時、オープン。
淡々と店の準備をする。
厨房に立ちながら、ふと入口に目をやる。

——人が少ない。

「あれ……?」

なんだか、拍子抜けするような静けさだった。
ピークは昼からなのかもしれない。
でも、初日や2日目のような、あの“押し寄せる圧”は感じない。

スタッフと目が合う。

「今日、そんなに忙しくならんのかな……」

誰かが小さく呟いた。

その予感は、当たった。

慌ただしく動き回ることはなく、じっくりとお客さんと話す余裕があった。

「昨日のあの子、また来るやろか……」

そんなことを考えながら、目の前の一人ひとりに料理を手渡していく。

太陽が少しずつ傾いていく。
17時、空が夕暮れに染まりはじめる。
列はある。けれど、昨日のような長蛇にはならなかった。

「なんか……終わるんやなぁ……」

ふと、そんな感情が胸に広がった。
少し寂しくて、少しホッとして、でもやっぱり寂しい。

厨房の片付けをしていたスタッフが、ぽつりと呟く。

「……終わったな。」

誰も返事をしなかった。
ただ、その言葉だけが、静かに夜の空気に溶けていった。

22時、夜組にあとは任せて、帰り道。
遠くから、聴こえてきた。

ノエル・ギャラガーの「Don’t Look Back in Anger」。
メインステージの大トリ、最後の曲。
何千人もの人たちが、大合唱していた。

夜空に響くその歌声は、やけに綺麗だった。
照明の光が空に溶けて、まるで星と混ざり合うように揺れていた。

立ち止まった。
何も言えなかった。
それまで張り詰めていたものが、音もなく崩れていくのがわかった。

胸の奥がギュッと締め付けられる。

「寂しいな……」

何かが足りない。
もっとできたんじゃないか。
もっと、すごい景色を見たかった。

なぜか、悔しさが込み上げてきた。
本当に、悔しかった。

だから、夜空を見上げて、心の中で誓った。

「リベンジしたい。」

もう一度、この場所に戻ってこよう。
そう思った。

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