フジロック2024 出店記④「2日目」

店主のひとりごと

朝、目が覚めた瞬間、体にまとわりつくような重さを感じた。
睡眠3時間、腕も、足も、言うことを聞かない。

ふと時計を見る。
その瞬間、現実が突きつけられた。

「やばい、もう時間や……。」

慌てて身体を起こす。
ギシギシときしむ関節に鞭打つように、
昨日の疲労を引きずったまま、会場へ向かった。

まだ終わってない。
もう2日目が始まっている。

10時過ぎ。
朝の涼しさなんて、とうに消えていた。
陽が昇り、じっとりとした空気が肌にまとわりついてくる。
テントを開け、準備を進める。
ふと顔を上げると、もう客が並び始めていた。

「早っ……。」

そりゃそうだ。
フジロックの2日目は、中日ということでピークの時間が長い。
昨日の熱気そのままに、みんな全力で食事を求めてやってくる。

そして、始まった。

10時過ぎから夜の22時まで。
終わることのない、3、40メートルの長蛇の列。
レジに立つ。後ろを振り返る暇なんて、一秒もなかった。

打つ、打つ、打つ。
ひたすらオーダーをさばく。

「お待たせしました!」
「次の方!」
「梅鯛茶漬け、一丁!」

右手でレジを打ち、左手でお釣りを渡し、
同時に厨房に声を飛ばす。
まるで、機械になったような感覚だった。
思考は停止し、ただ身体だけが動き続ける。

「あと何時間?」
そんなことを考える余裕すらない。

それでも、ふとした瞬間、視界の小さな影が見えた。
10歳くらいの、ひとりぼっちの子どもが列に並んでいた。

人混みの中で揺れている。
なんだか、それがやけに印象的だった。

「すごいな……。」

あの子は、こんな行列の中、一人で立っている。
ようやく、その子の順番が来た。

「いらっしゃい!」

顔を上げたその子は、まっすぐ僕を見てにっこり笑った。

「梅鯛茶漬けください!」

小さな声じゃなかった。
しっかりとした声だった。

「ありがとう!おいしく食べてな!」

そう言って手渡した梅鯛茶漬けを、
その子はまるで宝物みたいに両手で抱えて、
人混みの中へ消えていった。

でも、それから3時間後。
また、あの子が列に並んでいた。

「え……また来てくれたん?」

「あのね、ここのが一番おいしかったから。」

その言葉に、胸の奥から何かがふわっと込み上げた。
ずっと重かった身体が、一瞬だけ軽くなった気がした。

「あかん、泣きそうや。」

心のどこかで、そう思った。

「ありがとうな!」

思わず頭を下げた。
その子は、また満足そうに笑って、
もう一杯の梅鯛茶漬けを抱えて帰っていった。

それから、リピーターが少しずつ増えていった。

「新しいね!こんな店待ってたよ!」
「梅干しって、こんなにうまいんだな!」

そんな声が、次々と届いた。

どこか夢の中にいるようだった。
疲労で朦朧としながら、それでも心だけは、少しずつ満たされていった。

「やってよかった……。」

気づけば、そう呟いていた。

でも、まだ2日目。
まだ終わりじゃない。

そして、このときは知らなかった。
最終日が、この3日間で一番特別な夜になることを。

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